求人サイトをよく見ている僕の嫁。今働いているイタリアンレストランのバイトに不満があるわけではないものの、しょっちゅうスマホで求人情報を眺めています。
「だって、まだ見ぬキラキラしたバイト生活が私を待っているような気がするんだよね~」ということらしいのです。
その気持ちは僕にもなんだかよくわかります。いろいろなバイトをしてきたけれども、求人広告で新しいバイトを探しているときはいつだってワクワクしたもの。
「アットホームな職場です☆」と書かれた広告の横におどけた仲間たちの写真が載っていたりすると、その輪の中に入る自分を想像したりして。まだ働いてもいないのに、ましてや問い合わせの電話もしてないのに胸が高まってしまうんです。
バイトってお金を稼ぐ手段であることは間違いないですが、それ以上に得られるものがありますよね。友達ができたり、仲間と飲み会したり、好きな人もできたり、それから付き合ったり……ワクワクとドキドキがあるんです。だから、嫁が求人を見ながらまだ見ぬ未来を想像して、楽しい気持ちになっているのはよくわかります。
僕にも忘れられないバイトの思い出があります。今から8年前に働いていたバイト先でのことでした。寿司屋と居酒屋が合わさったような店で、その職場がまさにアットホームな雰囲気。バイト仲間としょっちゅう飲み会もしていたし、本当に仲が良くて、バイトに行くのも毎日楽しかったです。
そして、バイト内恋愛も多く、ほぼすべてのバイトたちがここで好きな人と出会い、そして付き合っていました。バイトメンバーは専門学生や大学生が多く、当時27歳だった僕はみんなよりはちょっとだけ年上。そのため、おっさん扱いされていじられていたのですが、とてもおいしいポジションだったので、それはそれで楽しかったです。
僕はおじさんのような気持ちで、恋をしてるバイトの子たちを「みんな楽しんでんな~」と見守っていました。
そして季節は春。
若者たちの恋を見守ってばかりでしたが、実は僕も密かに片思いをしていました。
相手は7つ年下の専門学生でした。
仲良くなるきっかけを探していたとき、ちょうどバイト仲間で花見をすることになりました。その日は僕と彼女がシフトに入っていなかったので、買い出しと場所取りを担当することに。ドキドキしながら吉祥寺駅で待ち合わせをして、買い出しへ。そして、お酒やおつまみをたくさん買いこみ、大きな袋を両手いっぱいにぶら下げて、公園に向かいました。すると、その途中に彼女の高校時代の友人にばったり遭遇したのです。
「ひさしぶり~!」とはしゃぎながら、その友達は僕のことをチラリと横目で見てきました。「なんだろう……?」と思ったものの、僕は静かにふたりの会話を聞いていました。彼女たちは少しだけしゃべって「じゃあまたね~」と解散。そして、今度は僕と彼女の顔を交互に見て、ニヤニヤとしながら去っていく友達。最初は不思議だったのですが、彼女はハッと気づいて去り行く友達の背中に向かって叫びました。
「ねぇ!違うから!この人違うから!!」
聞こえていたのか、聞こえてなかったかはわかりませんが、友達は振り向かずそのまま街の中に消えていきました。「絶対に勘違いされた……」とつぶやく彼女の横顔を見て、少し落ち込みながら公園に向かってとぼとぼと歩いたことをよく覚えています。
彼女が「この人違うから!」と叫んだ日から一カ月が経ちました。
あの日は完全に脈がないのだと思って落ち込んでいたのに、僕たちは付き合うことになったのです。
どうしてそうなったのかはいつかの機会にとっておくとして、本当に恋愛ってどうなるかわからないですよね、予測不可能。まさか付き合うことになるなんて、夢にも思わなかったです。
あのころのバイト先には今でも時々遊びに行きます。当時のマネージャーも今では店長になっていて、息子たちを連れて行くと、とても歓迎してくれます。
店長以外のメンバーはもうひとりも残っていないのですが、やっぱり今も若いバイトの子たちがたくさん働いていて「今でもこの中で恋愛したりしているんだろうな~」なんて、当時の姿と重ねて見てしまったりします。
バイトって、予想できないことが起こるものです。求人サイト越しに想像していたワクワクを超えた未来が待っていたりします。
たまに学生たちから「出会いがない!」なんてことを聞いたりするけど、まずは求人サイトを見てみるのはどうでしょうか? まだ始まっていない、バイトでの新しい未来を妄想するだけで楽しみが広がります。
そしてワクワクが高まってきたら、実際に働きはじめるといいです。そこにはまだ見ぬ、キラキラしたバイト生活があなたを待っているかもしれませんよ。
あ、言い忘れていましたが、そのときの彼女が求人サイトを眺めている今の僕の嫁です。
妻と息子2人との日常をツイートしたTwitterアカウントで人気に。ツイートを原作とした漫画も発売。現在は家族コラムを中心に執筆。
Twitter https://twitter.com/meer_kato