「バイトが”売る楽しさ”を気づかせてくれました」 ゲストハウス「きっか家」店主・白井秀典の原点

白井秀典さん

自分のやりたいことを仕事にしたい。誰もが持つそんな思いを実現している社会人は、何を考え、何を経験し、目標を叶えてきたのだろう。インタビューを通して、「バイトで学んだことがその後のキャリアにどう役立ったか」「人生の岐路に立ったとき、どんなモノサシで自分の道を決めたのか」を聞いてきました。

今回紹介するのは、山梨県富士吉田市にあるゲストハウス「きっか家(け)」の店主・白井秀典さん(31歳)。都会で暮らす若者たちの「週末リフレッシュ」の場として人気の宿です。さまざまな企業や商品のプロモーションにプランナーとして携わるなどマルチに活躍する彼の原点は、バイトでのある経験でした。

 

バイトが「売る楽しさ」を気づかせてくれた

白井秀典さん

――高校を出て東京の大学に進学されてから、いろいろなバイトをされたそうですね。

東京で一人暮らしをはじめて一番の心配は食べることでしたから、焼肉の食べ放題のお店でバイトをはじめました。まかないで焼肉を食べられたことは一度もありませんでしたが(笑)。その後もとにかくいろいろやってみたくて、お寿司屋さんとかカフェとか、イベントのスタッフのバイトもやりました。漠然と大学生活を送っていたので、バイトで自分探しというか、何かおもしろいことが見つけられるんじゃないかと思っていました。

――数あるバイトの中で、今の自分に影響を与えているバイトってありますか?

派遣で入っていたスーパーのバイトです。大学3年からは山梨の実家から学校に通っていたので、地元でバイトを探して、スーパーのレジのバイトを見つけました。

最初はレジの仕事だけだったのですが、ある日アイスコーヒーの試飲販売を任されたんです。単純にブラックで試飲してもらうんですけど、ふとクリームとガムシロップも欲しいなって思ったんですね。自分がそういう飲み方をするので(笑)。お店からOKをもらって両方とも置いたら売上が伸びて、相乗効果でクリームとガムシロップも売れたんです。「こういうの面白いな!」って思ったのを覚えています。

ものを売るにはどうしたらいいのかを考えるのが楽しくて、それを仕事にできたらいいなって思うようになりました。その思いが僕の原点になっていると思います。

 

挫折で見えた、プロモーションの本質

白井秀典さん

――大学卒業後は、広告代理店に入ったんですよね。
広告代理店が舞台の「サプリ」というドラマを見て憧れたのと、ものを売るために頭を使うことの楽しさをバイトで味わったのもありました。入社後は大手スーパーの販促物の制作を担当。寝る暇もないくらいの忙しさで、午前中に打ち合わせしてデザインを起こして、翌日納品なんてこともしばしば。数年経つとクライアントへの提案もできるようになり、自分で手を挙げて新しいプロジェクトを任せてもらえるようにもなりました。そんなとき、大手スーパー子会社の出版社への出向が決まったんです。

――抜てきされたんですね。

でもレベルが全然違って、まったく使い物にならなりませんでした(苦笑)。なにをどんなに提案してもボツ。天狗になっていた鼻をバキンと折られましたね。僕が師匠と仰いでいる人に諭されたことですが、「提案は思いつきじゃいけない。相手のことを本気で考え抜かないとダメなんだ」ってことに気づきました。1年間の出向を通してはじめて、一流の仕事のしかたが見えましたね。

―――出向が終わってすぐ転職されたそうですね。

プロモーションの本質を突き詰めたいという思いが強くなったんです。ウェブ制作会社に転職して広告代理店のような仕事を自分で立ち上げ、営業からディレクションまで一人でやるようになりました。ある大手スーパーの店内Wi-Fiを使ったプロモーションの仕事を頂いたときは、旬のブリを売りたいスーパーとポン酢を売りたいメーカーとをつなぎ、「ぶりしゃぶ」のレシピを店内Wi-Fiだけで公開しました。お客様がアクセスするとレシピと一緒にブリとポン酢の割引クーポンが発行されて、今晩のおかずをお得に買えるしくみです。これが当たって、今や定番コンテンツに。スーパー、メーカー、お客様の気持ちを考え抜いて提案した結果が出て嬉しかったです。

 

ゲストハウスから、地元の魅力を発信するきっかけを

白井秀典さん

――そして昨年、ふるさとに戻って独立されたんですよね。

ようやく自信もついて、プロモーションの仕事で培った自分の力を試したいという気持ちが芽生えていました。そんなとき、友人を連れて地元の山梨を案内したんです。地元の人は「山梨にはなんにもない」って言いますが、本当は見どころがあふれている。とくに富士山麓ならではの豊かな自然がすごく魅力的だと思って、それを友人にも熱心に紹介していたんですよ。そのとき言われた「地元のことを話しているときが一番輝いている。そういうことを仕事にしたら?」という言葉が一つのきっかけになって、地元でプロモーションの仕事をつくることを決意しました。

――ゲストハウスの形を選んだのはなぜですか?

地元のすばらしさを感じてもらえて、なおかつ人とのつながりを生み出す「場」をつくりたくて、ゲストハウスという答えにたどりきました。コンセプトは、週末二日間で気軽に自然の中で癒されながら人との出会いが生まれる「週末リフレッシュ」。客室内にテントを張ってアウトドアを味わえる空間をつくったり、木のぬくもりや自然を感じられる設えにしています。

――駅からは少し離れた立地のようですが。

よく言われます(笑)。最寄駅からはだいたい徒歩20分くらいかかりますね。開業前から「駅に近い物件のほうがいいぞ」っていろんな人からアドバイスされましたが、アクセスの良さだけで刹那的に集客できたとしてもそれがずっと続くわけじゃない。すぐそばに森があって自然に触れられる環境とか、居心地のよさやここでしかできない体験など、宿の価値をプロモーションして結果を出そうと思いました。

 

駅徒歩20分なのに、予約でいっぱい。価値をつたえる仕事の流儀

白井秀典さん

――いまでは、週末は予約でいっぱいなんですよね。

おかげさまでなんとか(笑)。最初は旅行サイトを見て来た海外の方が多かったのですが、開業半年を過ぎたあたりから変化がありました。あるとき、当時北陸・甲信越地方でしか販売していなかった「ルマンドアイス」の写真をインスタグラムに載せたら、投稿を見た方がアイスを目当てに泊まりにきてくれました。その方にしてみれば、せっかく山梨に行くなら泊まって観光もしたいけど、200円ちょっとのアイスのために10,000円の宿に泊まるのは気が引ける。だから気軽に泊まれるうちの宿がぴったりだったというわけです。

その後も、数十センチ積もった雪の投稿を見て「雪に触れたい」と言って遊びに来てくれる方もいましたね。自前のサイトやSNSでの発信をもとに、うちの宿を使う目的をお客様にイメージしてもらえるようになって、より多くの方々に来ていただけるようになりました。リピーターも増えています。

――発信していくことって大事なんですね。

どんなにいいものでも、良さが伝わらなければ誰も買ってくれません。「素材」となる商品の質や作り手の思いなどを吟味して、受け手にぴったりの「料理」として発信して、正しく伝えることがプロモーションのプロとしての仕事です。

そういう本質って、スーパーでのバイトで試食販売をやっていたころと変わらない大切な部分。これからの宿づくりと山梨のプロモーションにも欠かせません。千葉からIターンしてきたくれた妻と一緒に、二人三脚でやっていければと思っています。

 

バイトで知ったプロモーションの楽しさを自分の天職に

ゲストハウスで地元・山梨のプロモーションに汗を流す白井さん。その原点は、バイトで試食販売を成功させ、ものを売るために頭を使う楽しさを覚えたことでした。転職や独立では、プロモーションの仕事の本質を突き詰めて自分の力を試したいという志がよりどころになったようです。白井さんは今もその志を貫き、プロフェッショナルであり続けようとしています。あなたのバイトもいつか、天職へつながるきっかけになるかもしれません。

白井秀典さん
地元の山梨で経営するゲストハウス「きっか家」
白井秀典(しらい ひでのり)
1985年 山梨県生まれ。大学進学を機に上京し、広告代理店で勤務。プロモーションプランナーとして活躍する。2016年にUターンし、山梨県富士吉田市でゲストハウス「きっか家(け)」をオープン。店主として宿を経営する傍ら、プランナーとしてさまざまな企業や商品のプロモーションに携わっている。

(取材・執筆:佐藤史親)

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