【憧れシゴト図鑑】 乃木坂46『インフルエンサー』などを手掛ける注目の振付師&ダンサー・Seishiroさんインタビュー

【憧れシゴト図鑑】 乃木坂46『インフルエンサー』などを手掛ける注目の振付師&ダンサー・Seishiroさんインタビュー

乃木坂46のミリオンヒット曲『インフルエンサー』といえば、昨年の『日本レコード大賞』『紅白歌合戦』でも大いに話題を呼んだ。この曲が多くの人を魅了する1つの要因に、インパクトのあるパフォーマンスがある。両腕を複雑に駆使するこの振付は、「グループ史上最高の難易度」と称された。それを担当したのが、振付師であり、自身もダンサーとして活動するSeishiroさん。そのダンスに賭ける熱い想いを聞かせてくれた。

ダンスに人生を賭けると決め、バイトで50万円貯めて東京へ

Seishiro「邪浄朱仏」@En Dance Studio SHIBUYA
 

――10代のころは自身のセクシャリティに悩み、そんなときに出会った1本の番組が、彼の人生を大きく動かした。

「私の家は6人兄弟で女性が多かったこともあり、小さいころから姉たちと女の子の遊びをして育ちました。だから、物心付いたころから、自分の恋愛対象が男性であることに気づいていたんですね。でも、私の地元は田舎のほうで、人間味あふれる土地柄ではあったけど、反面、“男とはこう”みたいな固定概念が強くて…。当時の私は、カミングアウトする気もなく、ゲイであることを隠していました。だから“まだ彼女できないの?”“もしかしてゲイ?”という何気ない言葉もストレスに感じてしまい、“いつか、この窮屈な場所から抜け出したい”と思いながら、本当の姿を見せられる居場所を探していたんです。

中学3年生のころだったかな、『ワンナイR&R』というバラエティ番組を見ていたとき、ガレッジセールの2人と宮迫博之さんが、Destiny’s Childの『Lose My Breath』を踊っているのを見て、大爆笑したのが初めてダンスに興味を持った瞬間でした。それからは地元のスポーツセンターのダンス教室に通い始めて、レッスン代を稼ぐため、通信制の高校に進学しながら、建築業や水泳インストラクターなど、さまざまなバイトを掛け持ちしていました。

20歳のころ、音楽関係の仕事をしている方と出会って、“君はここにいるのはもったいない。もっと広い世界を見たほうがいい”って言われて。地元での自分のセクシャルについて解放したかったし、“いっそこの人生、ダンスに賭けてみるのも悪くない”と、東京行きを決意しました。それからは5カ月間みっちりバイトして、上京するための資金を50万円貯めました。」

振付師のコンテストで最年少優勝を果たす

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――夢とバイトで貯めたわずかな貯金を抱えて単身東京へ。それが人生にとって大きなターニングポイントとなった。

「上京後はコンピュータ会社のコールセンターでバイトしながら、すぐにダンス教室に通うことに。するとレッスン初日に先生から“自分の代行として生徒たちに教えてくれないか”と言われたんです。突然すぎてビックリしたんですが、当時、地元で学んできたものを評価していただけたみたいで、すごく嬉しく思いました。そこからはダンス講師の仕事が増えていって、さらにはアーティストのバックダンサーの仕事も入るようになったんです。上京から1年でコールセンターのバイトも辞めて、ダンス関連の仕事で食べていけるようになりましたね。初めて自分で振付を考えたのもそのころからで、自分の振付した作品をクラブや動画などで発表し始めていました。」

『坐巫艶-ヲミナ-』。2017年Rei Dance Studio発表会「ART FOR ALL vol.14」でのオープニング作品。
 

――そして彼は、振付師のコンテストにも立て続けに出場し、輝かしい成績をおさめていった。

「私が振付をし、生徒たちが出場した『VIBE JAPAN 2013』(ダンスコンテスト)が2位で、そのときは悔しかったですね。その翌年には振付師日本一を決める『Legend Tokyo』に応募して、関東予選は満点優勝で通過したものの、本選は4位。“もう2度と出るか!”と思いましたけど(笑)、2015年に“今度は絶対に勝つ”って決意で参加して、優勝(当時の最年少優勝)をはじめ、5つの賞(過去最多)をいただきました。」

乃木坂46『インフルエンサー』の振付で注目をあびる

乃木坂46『インフルエンサー』のミュージックビデオ。(『乃木坂46 OFFICIAL YouTube CHANNEL』より)
 

――2015年には女性ダンスボーカルグループ・Flowerのライブツアーの振付、2016 年には『Legend Tokyo』のオープニング演出、そして2017年には注目を集めた『インフルエンサー』の振付を担当した。

「『インフルエンサー』の振付のテーマは、“早い振り”と“女性らしいライン”。かわいさは一切抜きにして、クールで大人の美しさだけを追求しました。ただ、凝った振付を考えた分、覚えるのは大変で、レッスンに充てられた時間はPV撮影前日の1日だけ。そんな時間じゃ覚えきれずに、結局、撮影当日は1人1人に教えて撮影、次の振りを覚えさせて撮影、の繰り返しでした。無事にPVが撮り終わってからも、今度はライブ用に全ての振りを完璧に教えさせなきゃいけなくて。でも、彼女たちは本当に頑張り屋で努力家、本気で取り組んでくれました。ダンスって人間の中身が現れてくるもので、彼女たちは“みんなのアイドル”だけど、それぞれの中には当然、悲しさや怒り、悔しさといった負の感情もあったりする。そんな抑えつけている感情を、ダンスを通して解放してほしいと思っていたんです。だからレッスンのときには、もっと自分と向き合い、自分を認めて、自分を愛することが必要だということを伝えていました。最終的には『紅白歌合戦』の現場まで、1年近く付き添うことになりました。おかげで乃木坂の皆さんとは絆が深まったと思っています。」

無理して夢を持たなくてもいい。それよりも広い視野を持つことが大切

【憧れシゴト図鑑】 乃木坂46『インフルエンサー』などを手掛ける注目の振付師&ダンサー・Seishiroさんインタビュー

――現在は、ダンスの講師や振付師だけでなく、舞台やライブなどの演出も任されている。順調ななかでの辛さややりがいとは何だろうか。

「辛いことは、いいものを作れば作るほど、“次はその上を超えるものを作らなきゃいけない”って思うことかな。“Seishiroなら必ずいいものを作ってくれる”という期待からオファーをくれていると思うので、それに応えなきゃいけないというプレッシャーは、この仕事を続ける以上、一生付き纏うものなのかもしれないですね。やりがいは、そうした仕事の評価をいただくこと。私の舞台を見て、“涙が出ました”って言ってくれたお客さんの言葉は、もう一生の宝物。その一言を聞きたくて、命削って頑張ってます(笑)」

――「ダンスに自分の人生を賭ける」という想いが見事に実を結んだSeishiroさん。最後に、そんな夢さえも見つけられずに悩んでいる若者にアドバイスを贈ってもらった。

「“最近の若い人は夢がない”って言われているけれど、私は“無理に夢を持たなくてもいいよ”と思うんです。夢を持つことは素晴らしいことだし、人生の近道にはなるけれど、反面、その夢が破れたときには何も残らなくなってしまうでしょ。それよりも、今、自分が夢中になれるものを1つ見つけて、それをひたすら頑張る。それが何かの仕事に繋がればいいし、たとえ繋がらなくても、1つのことを突き詰めていけば、そこには自分が生まれてきた意味が見出せると思うんですよね。
人生にはたくさんの分岐点があって、決して正解の道ばかり選べるわけじゃない。でも、間違えた選択も、そこには意味があると思うんです。だから、自分の選択肢を狭めないでほしいですね。広い視野を持って、生きていってほしいな、と思います。」

■プロフィール
Seishiro(セイシロウ)
1990年生まれ。福岡県出身。15歳でダンスに目覚め、20歳でダンサーを目指して上京。その後は都内のダンススタジオで講師を勤めながら、ミュージシャンのバックダンサーや振付、数多くの舞台演出も手がける。これまで、FlowerをはじめLDH所属アーティストのプライベートレッスンから振付などを手がけ、自身もダンサーとして、E-girlsの『DANCE WITH ME NOW』PVに出演。2018年9月20日~23日には、渋谷区文化総合センターにて自主公演を開催する。

SeishiroさんのInstagram
https://www.instagram.com/seishiro_akidomi/

SeishiroさんのTwitter
https://twitter.com/sei_chang

取材・文:佐藤豊治 撮影:八木虎造

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