【憧れシゴト図鑑】 映画『ちはやふる』の3部作をはじめ、映画やドラマの音楽を生み出し続ける作曲家・横山克さんインタビュー

横山克 作曲家 憧れシゴト図鑑 作曲
現在公開中(※2018年3月時点)の話題の映画『ちはやふる ―結び―』をはじめとするシリーズ3部作や、誰もが知っているような映画、ドラマ、アニメの劇伴(げきばん)制作に携わってきた横山克さん。「劇伴(げきばん)」とは、映画やドラマなどの劇中に流れる伴奏音楽のことで、そのシーンを印象付けるのになくてはならない音楽だ。今回は、横山さんの歩みを通して、劇伴制作の世界をのぞいてみる。

 

CM制作会社に曲を送り続けた大学時代

横山克 作曲家 憧れシゴト図鑑 作曲
――3歳からピアノを習い、小学3年生ではすでにコンピュータを使って作曲をしていたという横山さん。コンピュータの知識を深めようと中学卒業後は高等専門学校に進学し、大学は音楽表現を学ぶために国立音楽大学へ進学した。

「大学では、“(音楽における)システム作り”を学べたのが大きな収穫でした。つまり、“なぜこういう曲を作るのか”ということを突き詰めて考える方法なんです。大学においては、現代音楽からそれを学びました。この発想は今の仕事でも取り入れています。映像に対して、何故この音楽が必要なのか。なんとなくいい曲を作るんじゃなくって、理由があるから音楽を当てるんです。

でも、大学に通うにつれ、妙な焦りを感じ始めたんです。高専時代の友達の多くは社会に出て、すでにお金を稼いでいました。また高専は、仕事に直結するような実践的な勉強が中心だったので、僕も“早くお金を稼ぎたい”という意識が強かったんですね。ところが音大は、“お金を稼ぐ”という部分からは遠い感じ……。芸術とはそういう性質のものでもあるし、それはそれで大切な側面もありますが、現実社会とは離れた独特の空気はありました。

危機感を感じた僕は、 とにかく自分が思いつくことを何でもしました。CM音楽の制作会社に積極的に曲を送るようにしていたところ、目を付けてくれたのが、多くのCM音楽をプロデュースしていた山田勝也さんでした。

 山田さんとの仕事はとにかく忙しく、そして厳しかった。そしてたくさんの音楽も作りました。おかげでいろんなジャンルの音楽に触れることができましたし、実践的な勉強もたくさんさせてもらいました。録音がなかなか経験できない若い作曲家って多いのですが、毎日のように録音をやらせてもらえました。もちろん、曲作りもです。今振り返ってみると、20代前半で山田さんに出会えて、育ててもらったことは僕の最大の財産であり、間違いなく最大の恩人です」

 

卒業後はフリーで活躍していたが、夢を実現するために事務所入りを決意

横山克 作曲家 憧れシゴト図鑑 作曲
――あるとき、現在の事務所へ入ることを決意する。それは、子供のころからの夢を実現するためでもあった。

「20代前半はフリーで活動していて、いい出会いもたくさんありました。声優さんの歌う音楽を作るお仕事をさせていただき、その出会いは、いま、ももいろクローバーZさんの音楽を作ることにもつながっています。

子供のころから久石譲さんが好きで、“いつか自分も映画音楽のサウンドトラックを作りたい”という夢を持ち続けていました。音大に入学して、クラシック音楽の勉強をしたのも、そのためです。最初は自分の実力がないことも認識していたので、ずっと仕事を通して様々な事を学んでいきました。あるときご縁もあり、いま所属している事務所のミラクル・バスにお世話になることになったのです」

――その後は、アニメ、ドラマ、CM、そして映画と、ジャンルを問わず多方面で劇伴を手がけていく。

「映画の劇伴は1作品あたり25~40曲ぐらい、ドラマは1クール25~30曲、アニメで40曲くらい作ります。映画は最後に音楽を付けるので映像を観ながら曲の制作ができます。ドラマやアニメは通常、脚本や設定、衣装合わせの写真などから想像を膨らませて先に作ります。そしてどのシーンにどの曲を充てるのかは、作曲家とは別に、選曲家という職業の方がいます。時には自分がイメージしたシーンとは違う使われ方をすることもありますが、それはそれで新鮮さや発見もあって楽しんでいます」

横山克 作曲家 憧れシゴト図鑑 作曲
『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』
©創通・サンライズ・MBS

――曲の制作に追われるなか、アニメ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』は、彼にとって大きな意味を持つ出合いとなった。

「もう、本当にやりたい放題やらせていただきました(笑)。レコーディングをドイツやハンガリー、ニューヨークでしたり、作品のイメージに合うからとバルカンブラスという特殊な楽器を使ったり。なかなか演奏できる人が見つからなくて、世界中を探しました。

作曲家は、良い音楽を作るだけじゃダメだと思うんです。良い音楽なんていっぱいあるし、作品に合う音楽も誰もが作っています。大切なのは、作品にどれだけ自分なりの言語やシステムを取り入れられるか。そのうえで、周りも自分も納得できる面白いものが作れるかだと。その意味では、『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』は、自分のやりたいことをありったけ詰め込めた作品になったと思います。ガンダムという歴史ある作品において、それだけの責任もあったと思っています」

 

『ちはやふる』での仕事でさらに高みへ

横山克 作曲家 憧れシゴト図鑑 作曲
『ちはらふる ―結び―』 全国東宝系にて大ヒット上映中
©2018 映画「ちはやふる」製作委員会 © 末次由紀/講談社

――横山さんにとって大きな分岐点となった作品がもう1本ある。映画『ちはやふる』だ。この作品は彼にとって異例な出来事だらけだったと話す。

「最初にオファーを受けたのは、シリーズ1作目の『上の句』(2016年)公開の1年ぐらい前でした。仕事のオファーではなく、小泉(徳弘)監督から“とりあえず会いたい”って言われて。そんな経験なかったので、“会いたいって?”って(笑)。今になって思うと、小泉さんも、プロデューサーの巣立恭平さんも、物事を1つ1つきちんと見極めながら進めていこうというスタンスの方だったので、まずは僕の人となりを見たかったんでしょうね。正式なオファーをいただいたのは、それから1週間後でした。

『ちはやふる』は3作それぞれ40曲程度ずつ作ることになったんですが、いちばん最初に『上の句』用に多くの曲を監督に持っていったら、ほとんどボツになり(苦笑)。小泉監督はボツにする理由を1曲1曲説明してくださり、その全ては明確でした。クリエイティブのぶつかり合いですから、当然こういったことは起こりえます。だから、もうお互いの熱意しかないと思っていて。監督のみならず、それが全スタッフやキャストにある作品だったのは、見ていただいた方全てに伝わるものだと思います。そこからは1週間ほどでまた多くの曲を作り直しました。

曲が定まってからレコーディングやミキシングをして納品しますが、『ちはやふる』は制作期間として十分な期間もいただいて、腰を据えて取り組むことができました。最終章の『結び』では、『上の句』『下の句』以降に発見したことから得られた経験も盛り込み、新たな音響の使い方にチャレンジするなどして、自分のなかでは1つの到達点に達した作品になったと思っています」

 

バランス良く知識と技術を持つことが大切

横山克 作曲家 憧れシゴト図鑑 作曲
――最後に、劇伴制作に興味を持った学生がいたとしたら、こんなことを心掛けてほしいという。

「レコーディングで使う楽器の譜面はすべて書かなければいけないし、それぞれの楽器の特性も知らなくちゃいけない。それと同じように、コンピュータも使いこなせないといけません。また音楽以外のことでも、たとえば、作品の脚本を読み解く力や、監督やプロデューサーとのコミュニケーション能力だって必要になってくる。すべてがプロフェッショナルになる必要はありませんが、かなりハイレベルな全方位の知識をもって、音楽に活かしてほしいです。そして、やっぱり最後はアイディアが勝負の仕事なんです。

もうひとつは、良い出会いを求めて積極的に動くこと。僕も様々な方に出会ってきましたし、本当に良い出会いに恵まれたと思っています。もちろんいろんなことはありますが、それを怖がっていては何も始まりませんから。10代、20代のころなんて何度失敗したって大丈夫ですよ」

 

■プロフィール
横山克(ヨコヤマ マサル)
1982年生まれ。長野県出身。3歳のからピアノを始め、小学生時代からコンピュータを使いこなす。高専卒業後、国立音楽大学に進学。大学3年時に、大手菓子メーカーのCM音楽を担当する。その後は、ももいろクローバーZやイヤホンズなどへの楽曲提供、『信長協奏曲』『四月は君の嘘』『Fate/Apocrypha』といったアニメ作品、『Nのために』『スペシャリスト』『わろてんか』などのテレビドラマ、『ヒロイン失格』『心が叫びたがってるんだ。』『22年目の告白-私が真犯人です-』といった大ヒット映画などの劇伴を手がける。

横山さんのTwitter
@masaruyokoyama

取材・文:佐藤豊治 撮影:八木虎造

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