ジョイマン高木 第3話「意味」|履歴小説

比之葉ラプソディ 履歴小説
カツセマサヒコ、品田遊、ジョイマン高木、夏生さえり、比之葉ラプソディ。5人の作家・クリエイターが、同じ3枚の履歴書から妄想を膨らませて、それぞれの物語を綴る「履歴小説」。

最終回となる第3話のお題は、サッカーが趣味の高校生、岡田岳(17)の履歴書。

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書き手は、ツイートがエモすぎると話題のラップ芸人、ジョイマンの高木晋哉でお送りします。

 

ジョイマン高木 第3話「意味」

 
僕の名前は岡田岳。十七歳。都内の本住高校の二年生。サッカー部に所属している。二年だけど最近レギュラーに選ばれ、親も喜んでくれた。誰とでも仲良くなれるほうだし女友達も多い。彼女も最近できた。アルバイト先で知り合った、バンドをやっている2歳年上の浦部真鈴という女性だ。僕の夢は彼女のバンドに入る為にアルバイトでお金を貯めて楽器を買う事だ。バンドに入る為なら楽器は何だっていい。今、とっても幸せだ。今年の夏休みも部活とアルバイトと遊びで充実していた。

でも人間はいつか誰もが死ぬらしい。

僕の周りには幸運にもまだ死んだ人がいない。だから話に聞いた事があるだけで、噂のレベルだけど、どうやら人間はいつか誰もが死ぬらしい。もし本当にそうだとしたら、今、高校生活が楽しかったからといって果たして何の意味があるのだろう。人生が楽しくない人や、人生に失敗した人は、なおさら生きる意味があるのだろうか。僕は悩んでいる。生まれて初めて悩んでいる。今までは悩むことなんて無かった。全てはノリと勢いで何とかやってこれた。しかもこういう悩みは僕のキャラにないから何となく友達にも言いづらい。これが大人への階段というやつなのだろうか。

死といえば、この前ネットでお笑い芸人のジョイマンの死亡説が流れていた。僕が小学生の頃にテレビに出ていた芸人。ネタは何となく覚えているが僕には全く意味が分からなかった。まあ一発屋芸人になっていたみたいだし、生きていてもたいして意味はないのかもしれない。しかし本当に死んだのだろうか。でもネットに書いてあるのだから本当なのだろう。

そんなある日、僕は部活の無い休日に都内のショッピングモールで彼女とぶらぶらしていた。モール内の広場ではイベントが開催されていた。イベントは始まってから既に少し時間がたっているようだった。

僕は目を疑った。

ステージにジョイマンがいる。

幽霊がいる。ジョイマンの幽霊がイベントでネタをしている。

僕は腰を抜かしてその場に尻もちをついた。彼女はキョトンとしている。落ち着け。かっこ悪い。心拍を整えろ。イベントに人が集まっていないところを見るとジョイマンは僕にしか見えていないのかもしれない。ただ、近くにジョイマンを食い入るように見ながら涙を流している男性がいる。あの人も多分見えている。涙を流しているところを見ると親族だろうか。

すると横にいた彼女がおもむろにステージに近づき、ハンカチをジョイマンの眼鏡の男に渡した。彼女は恥ずかしそうにではあったが、ハンカチを渡しながらこう言った。

『この前は、ありがとう オリゴ糖♪』

そしてジョイマンの眼鏡の男が

『いえいえ♪ 持ち家♪』

と言った。いろいろ意味が分からなかった。そうだった、ああいう韻を踏んだ駄洒落の様なネタだった。思い出した。しかし今、ネタで会話する必要があったのだろうか。いやそんな事より彼女は知り合いだったのか?ジョイマンと。いやジョイマンの幽霊と。霊感とかあるタイプなんだ。僕は混乱していた。死んだと思っていた人間がいきなり目の前に現れたのだから当たり前だ。何なんだ。意味が分からない。お願いだから誰か意味を説明してくれ。

『意味分からなくてごめーん♪ 誠にすいまめーん♪』

ジョイマンのネタのフレーズが耳から入って、そして耳から出ていった。ネタが耳に入る前の自分と、ネタが耳に入り耳から出ていった後の自分。驚くほどに何の変化もなかった。

それに気づいた時、何かが横隔膜から込み上げてくるのを感じた。

笑いだった。僕は腹の底から笑っていた。膝から崩れ落ち、うずくまり、過呼吸になり声が出なくなるほど涙を流して笑っていた。なぜ笑っているのか理由は分からない。ただただ可笑しかったのだ。笑いながら、自分の中にある宇宙のようなものが拡がっていくのを感じた。今なら何でも出来るような、どこへでも行けるような、力強くて自由な気分だった。

『毎晩 ターバン♪ 毎分 脱糞♪』

まだ言ってる。しかし意味が無いという事がたまらなく心地良かった。僕は今まで意味が無いからといって取るに足らないものだと決めつけてしまったり、意味が分からないからといって何かを途中で諦めてしまったりしていた。何て傲慢だったんだろう。そうか。意味というものは、あったり無かったりするものじゃない。意味を与えるか与えないかは自分次第で、意味が分からない事は多分自分のせいなのに、なぜ僕はずっと全てを他の誰かや何かのせいにしてきたのだろう。

僕は、僕自身が、この広い銀河の片隅の小さな星のさらに小さな島国に人間として産まれた、その意味すら分かってないじゃないか。

ジョイマン高木 履歴小説 第3話

大切な事を教えてくれてありがとう。いや、ありがとう オリゴ糖。とても謙虚で清々しい気分になっていた。そして僕の中に真新しい夢が湧き上がってくるのを感じた。それは、アルバイトを頑張ってお金をいっぱい貯めて人を生き返らせる事のできる新薬を開発し、死んだジョイマンを生き返らせるという夢だ。
 


 
著者・ジョイマン 高木晋哉(@joymanjoyman

takagi_profile
お笑い芸人。神奈川県横浜市出身。桐蔭学園高等学校出身。早稲田大学中退。 NSC東京8期生。2003年中学からの同級生池谷とジョイマンを結成。出演番組は、「爆笑レッドカーペット」(フジテレビ)、「エンタの神様」(日本テレビ)、舞台「ハイスクール奇面組」(大間仁 役)など。

第1話「道標」
第2話「雨」
第3話 「意味」

著者からのコメント
この男の子は良いやつです。まだ若さゆえの足りなさや純粋過ぎるふしもあるけど、少なくとも夢を見る才能はある。浦部真鈴さんとこれからうまくいくかな、どうだろう、互いの足りないところを補い合って、たまに真鈴さんが大人になってあげて、二人で幸せに向かっていって欲しいです。浅野真悟くんも。

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