大学生・専門学生になり、一気に交友関係が広がったり、将来が現実的になったりして、悩みや不安を抱えている人も多いはず。誰かに話を聞いてもらいたい時もあるでしょう。
そんな日は、僧侶がやさしく道を照らしてくれるカフェやバーを訪れてみるのもいいかもしれません。人生相談に訪れる若いお客さまも多いとか。今回は、東京・四谷にある「坊主バー」の店主であり僧侶の藤岡善信さんに、学生客が抱えがちな悩みと、その対処法を聞きました。
断る勇気”を持つことで、思い通りの人生を歩んでいける
Q:サークルなど、大勢での飲み会が苦手だけど、なかなか断れません…
「性に合わないところに行く必要はないでしょう。“人間関係が広がる”といったメリットを期待しているかもしれませんが、嫌々行っても、あまりうまくいきませんよね。
無理して行くことよりも、「私は行きません」とはっきり意思表示できるようになることの方が、重要だと思います。断る勇気を身につけられると、ラクに生きていけますよ。勇気が必要だし、陰口を叩かれる怖さもあると思いますが、「関係ない」と言える強さを持ってほしいですね。まずは一度、「今日は行けない」と断ってみると、気持ちがラクになるはずです。
将来のことと同じで、周りの人や世の中に操られてはダメ。自分が人生の主人公にならなきゃいけません。断る勇気を身につけ、本音で生きられるようになれば、理想の生き方に近づいていけます。サークル内で「毎回飲み会に来るわけじゃない」というキャラクターが確立できたら、あとは自由です。飲み会に参加したい時は、参加すればいいですしね」
<僧侶からのひと言>
勉強や遊びで充実させて、深みにはまらないことが恋愛のコツ
Q:気になる異性にLINEをしても、既読スルーされてばかりで不安です…。
「その相手のことしか考えていないから、気になるんです。勉強やサークル、アルバイトで目一杯忙しくしちゃえばいいんです。自分が忙しければ、既読を気にする余裕もなくなります。
恋愛もいい経験ですが、好きな人に深くハマってしまうと、苦しみの種しか生まなくなります。恋愛は思うようにいかないものなので、考えすぎない方がうまくいきますよ。
あと、思いや感情は移り変わるものです。人間の集中力は、そんなに長く続かないので、ずっと悲しい状態でも苦しい状態でもないはずです。友達とご飯に行くなど、楽しいことが起きれば楽しい気分になって、恋愛で落ち込んでいる感情がすべてではないことがわかります。人生は、好きなことや楽しいことでいっぱいにしている方が、幸せになると思いますよ」
<僧侶からのひと言>
他者に委ねる人生では、本当にやりたいことが見えてこない
Q:就職活動が始まろうとしているのに、やりたい仕事が見つかりません。
「主体的に生きてこなかった結果、と言えるでしょう。周りが受験しているから『やばい、自分も受験しないと』と焦らされてきませんでしたか? 敷かれたレールの上を無意識で歩いていると、じきに迷いが生じるかもしれません。
仏教では「自灯明(じとうみょう)」という言葉があります。他を拠り所とすると、迷いや苦しみ、失望感を味わうため、自らを拠り所にしないとならないという意味です。「法灯明(ほうとうみょう)」という言葉もあり、法=真理ということ。経験から見えてくる正しいもの、確かなものを、頼っていきなさいという意味です。
自分自身で主体的に選択するためには、周りの意見を聞きすぎないことです。親や友達の意見は置いておいて、抱えている本音は何か、自分に聞いてみることが大切です。選んだ結果、失敗してもいいんです。どこかで成功した時に、自分の判断に自信がつきます。直感力が磨かれると、自分に合うものが見えてくると思いますよ」(藤岡さん・以下同)
<僧侶からのひと言>
無意味と思えることこそ、人間としての深みを出す糧となる
Q:今勉強していることが、将来的に役に立たない気がして、無意味に感じられてしまいます。
そもそも勉強する意味って、学生のうちはわからないですよね。社会に出てから『あの時、勉強しておけばよかった』と思うもの。勉強だけに専念できる時期って、学生の間しかないので、全うしてもらいたいと思います。その経験は、いずれすごい財産になりますよ。
学ぶ内容そのものが無意味に感じられるとしても、とことん勉強することが大事だと思います。何事も、無意味なことを一生懸命することが大切。仏教の修行でも、無意味でしかないことはたくさんあります。でも、そこにひたむきに向き合うと、喜びを覚えるようになるんです。
きっと損得で考えてしまうんですよね。すべてのことに意味を求めると、苦しくなると思います。無意味なこと、利益がないこと、利得がないこと、誰にも評価されないことを無心にやっていくと、人間の深みが出ます。数年後、数十年後に意味を見出せると思います」
<僧侶からのひと言>
心を磨いて洗練させることで、身近な人の素敵な部分に気づくことができる
Q:恋愛したいのに、好きな人が見つからない場合はどうすればいいですか?
「たまたま出会っていないのか、自分の思うように愛してくれる人が現れないのか、どちらかだと思いますが、待っていてもダメです。とはいっても、相手を探しに行くのではなく、自分のモチベーションを常に高めておくことが大切。楽しいことをして幸せな状態にしておくと、恋も仕事も楽しくなります。素敵な人も寄ってくるでしょう。
自分の殻に閉じこもって、感知する能力が鈍っている可能性もあります。舌の感度が洗練されているほど、薄味の食事の深みに気づけるのと同じように、心も洗練されているほど、人の素敵な部分が目に入りやすくなります。心のくすみが取れれば、いつでも恋ができます。
心を磨くためには、殻を破り、プライドを壊そうという自覚が大事です。足元に落ちているものに感謝してみましょう。何気ない1つ1つのことに感動することで、気持ちが柔軟になり、自然と殻も破れていきます。焦らずに立ち止まって、自分の立っている場所を意識することが大切です」
<僧侶からのひと言>
まとめ
藤岡さんのお話で共通していたことは、「主体的に生きること」「意識的に自分の思考を変えていくこと」でした。悩みを抱えつつなんとなく生きていたら、人生は変えられませんが、少しだけ意識して自分の行動を振り返ることで、違う道が見えてくる。特別なものは必要なく、誰にでもできることですよね。「坊主バー」で話を聞いてもらうだけでも、気持ちがリセットできることでしょう。未成年の学生さんはアルコールフリーのドリンクで♪
取材・構成・文:有竹亮介(verb)
撮影:今仲俊介