とある田舎で暮らす少女たちの日常を描いた劇場版アニメ「劇場版 のんのんびより ばけーしょん」で、主人公・宮内れんげの声を担当している小岩井ことりさん。“にゃんぱすー!”という不思議なあいさつを生み出した作品の舞台裏を明かしてくれたほか、声優を志したきっかけや仕事をする上で大切にしていることなどをお話ししてくれました。
「のんのんびより」との出会いが今の私を作ってくれた
――今回は田舎を飛び出し、旅行に出たれんげたちのひと夏の出来事が描かれていますね。
ドラマティックな展開がある作品が映画化されることが多いと思うんですけど、田舎暮らしの何気ない生活を描いた「のんのんびより」が、映画化されるなんて想像もしてませんでした。でも、アフレコをしてみたら、実は映画館で観るのにピッタリな作品だったんだなって。撮影に入る前に沖縄でロケハンしてきた写真も見せていただいたんですけど、完成した作品はイラストのいいところと実景のいいところが合わさった、臨場感のある素敵な映像になっていました。プラネタリウムを楽しむように2時間まったり癒やされてほしいですね。夏の映画館で涼んでほしい作品だなって思いました。
――あの風景の美しさは劇場で観るのにピッタリだと思います。初めてれんげを演じてから、もう5年になるんですね。
これだけ長い期間、一つの作品に関わらせていただくことはなかなかなくて、いろんな方から「れんちょんの人だ」とか、「にゃんぱすさん」と呼ばれては「はい、にゃんぱすです」って答えたり(笑)、小さいお子様から年配の方まで幅広い世代に愛されてる作品なんだなというのを実感しました。「のんのんびより」があったから、今の私があるんだと思います。
いつか私も「適当な」お芝居ができるようになりたい
――なかでも、この作品から学んだことは?
共演の先輩たちからいろんなことを勉強させてもらいました。みなさん、お芝居がとても自然なんですよ。こういう言い方をすると語弊があるんですけど、「適当に」やっているように見えるんです。適当というのは、肩の力を抜いてリラックスしてできているということ。でも、実はそれがお芝居としては正解なんですよね。台本をじっくり読み込んで、キャラクターがその場面に至るまで何を見て、何を考えてるのかを緻密に計算したうえで、その場で生きているかのように演じている。先輩たちのお芝居を見て、私もそうしたいと思うようになりました。
――みなさんのゆる~いやりとりに、見ている側もクスッとさせられます。小岩井さんにとってれんげはどんな存在ですか?
自分が小さい頃ってこんな感じだったのかなって思うんです。れんげはちょっと変わった子で、一見ハイテンションには見えないけど、自分の中ではすごく盛り上がっている。私もそんなところがあるので、どこか親近感を感じます。
――小岩井さん自身の“ばけーしょん”の思い出を聞かせてください。
声優っていう職業はギリギリまで休みがわからなくて、いきなり「明日休みだ!」ということがよくあるんです。以前、前日に急遽お休みが決まって、アプリで飛行機のチケットをとって沖縄へ行ったことがあります。ソーキそばや海ブドウを食べたり、ダイビングをしたりして、1日だけでしたが十分満喫できました。
――行動力にビックリです。この作品の見どころはどんなところですか?
“変わらないところ”ですね。劇場版になったからといって原作と何かが大きく変わるのではなく、作品のファンの方に「(のんのんびよりが)帰ってきた」と感じてもらえる内容になっていて、初めて観る方には「のんのんびより」ってこんな雰囲気なんだと感じていただける内容になっていると思います。
鳴き声だけで感情が伝えられる声優さんはスゴい!
――ここからは声優というお仕事について教えてください。志したきっかけは?
小さい時に好きなアニメがあって、その中のキャラクターが鳴き声だけで感情を表現するんですけど、子どもながらに何を伝えたいのかがはっきりわかったんです。それで、声優さんってすごいな、いつかなりたいなと思ったことがきっかけです。
――そうして就いた声優という職業ですが、現在に至るまで苦労も多かったと思います。
オーディションに行ってみたら、自分がアニメや雑誌で見ていたような声優さんも参加していて、その方たちと一つのイスをめぐってしのぎを削らなきゃいけない。「どうしたらいいんだろう」って悩みながら受け続けたオーディションで、幸運にもメインキャストに選んでいただいて今に至るという感じです。
チャンスが来たときに「はい!できます」と言えるように精進するしかない
――オーディションの印象的なエピソードがあれば聞かせてください。
初めて合格した役は可愛らしい女の子のキャラクターだったんですけど、メタルを歌うシーンがあったんです。私はもともとメタル好きだったし、ギャグも好きなので、「キャラクター声じゃない感じもありかな?」っていつも通りに歌ってみたら合格したんです。だから、オーディションでは自分だからできることをやるのが一番だと考えています。まさか、メタル好きがお仕事の役に立つ日がくるなんて、これもご縁だなと感じました。
――小岩井さんがメタル!? 意外ですね。仕事で悩んだ時はどんなふうに対処しているんでしょう?
そういう時ってホントどうしようもないんですけど、結局は今、自分にできることを最大限やって、チャンスが来たときに自信をもって「はい! できます」と言えるように普段から精進するしかないっていう結論にたどり着くんです。いろいろ悩むこともありますが、最終的にいつもその答えにたどり着くんですよね。
――メタルを歌って役をゲットしたからこそ……の言葉ですね。では、仕事をするうえで大事にしていることは?
私に音楽を教えてくださった先生から「人を喜ばせることを自分の喜びとできる人にこそ、前に立つ職業が向いている」言われたことがあって、感銘を受けたんです。だから、いつも人に喜んでもらえるようにということを頭においています。
身近な人を喜ばせることが、将来につながる
――「のんのんびより」でたくさんの人を癒やしたように、これからも多くの人を喜ばせる小岩井さんに期待します。声優さんとしての展望を聞かせてください。
「死ぬまでこの仕事を続けること」です。息の長い声優になりたいです。
――世の中にはまだ人生を懸けられる仕事と出会っていないという方もいます。そんな人たちへアドバイスをお願いします。
「人に喜んでもらうことが私の仕事だ」と気づいてから、何事もやりやすくなったんですよ。だから得意なことや、やりたいことがあるのなら、まずは身近な人から喜ばせてみてはいかがでしょうか。もしかしたら、それが将来のお仕事につながる何かが見つかるかもしれません。私もこれからもっともっとたくさんの人に喜んでいただけるような作品と出会いたいです。一緒に頑張っていきましょう。
小岩井ことり(こいわい ことり)
2月15日、京都府出身。2011年、「青の祓魔師」でテレビアニメデビューし、2012年、「じょしらく」で自身初のメインキャラクターを演じる。2013年、「のんのんびより」の主人公・宮内れんげに扮し、一躍人気声優に。また、MIDI検定1級を取得し、作詞家・作曲家としても活動している。
◆OFFICIAL SITE:http://pg-wcf.co.jp/
◆OFFICIAL BLOG:https://ameblo.jp/koiwai-kotori/
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編集:ぽっくんワールド企画
撮影:河井彩美
取材・文:荒垣信子