芸能界デビュー後、すぐに『宇宙戦隊キュウレンジャー』で主役を射止めた俳優、岐洲匠さん。しかし、中学時代はやる気のない毎日を送っていた時期もあったといいます。そんな日々からヒーローになれた理由、そして、ヒーローになってからの苦労など仕事への思いをうかがってみました。
やる気がない中学時代、将来のことなんて何も考えていなかった
――岐洲さんはもともと美容師になりたかったそうですね。
中学生のときに美容師になりたいと思い、高校生で普通の高校とダブルスクールで美容専門学校に通っていました。
――中学生でやりたいことが見つかるなんスゴイ! きちんと将来を考えていたんですね。
いえ、真逆なんです。僕、中学校までなんにも考えてなくて、むしろやる気のない子どもでした。勉強が嫌いで「なんのために勉強しないといけないの?」と思い学校にも行かず、ゲームばかりやっていた時期もあるぐらい。そんな僕の様子を見て、母親が「このままだとまずい」と思ったらしく、専門学校のパンフレットを取り寄せて僕に見せてくれて。もともと美容には興味があったので、おもしろそうだなと思い美容師を目指したんです。
――母親に感謝ですね。でも、そのままいけば今頃、美容師になっていたはずですが、なぜ役者に?
これも母親が『ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト』に応募してみたらとすすめてくれて。僕自身も「自分がどこまでいけるんだろう」と興味本位とノリで応募したんです。ちなみに書類選考の写真はおばあちゃんが選んでくれました(笑)
――家族、団結ですね(笑)。それで、どこまでいけたんですか?
『明色美顔ボーイ賞』を受賞できて、ありがたいことに何社かの事務所にスカウトされたんです。でも、このときは美容師になると思っていたし、ダブルスクールに通うだけでも大変だったので、これに加えて芸能のお仕事をするなんて絶対に無理だと考えてお断りしました。
一度は断った芸能界。でも同期がヒーローになっている姿を見て衝撃を受けた
――その気持ちがどこから変化したんでしょうか?
僕、昔から戦隊系やライダーなどのヒーローものが大好きで、高校生になっても観ていたんです。そうしたら、一緒にコンテストに出ていた渡邉剣くんが『動物戦隊ジュウオウジャー』に、西銘駿くんが『仮面ライダーゴースト』に出演していて、すごく衝撃を受けました。「僕と同期だった彼らがいつのまにかヒーローになっている!」って。
それで、専門学校で尊敬していた先輩に相談したら「美容師は資格を取ればいつでもなれるけれど、ヒーローは今がチャンスなんじゃない」と背中を押してもらって。それで、ジュノン編集部の方にお願いをして、スカウトを断った事務所に連絡を入れて貰ったんです。
――すごいバイタリティですね! 驚かれませんでした?
驚かれたし、こんなこと初めてだとも言われましたし、怒られることもありました。でも、スタートが遅れた分、頑張らないと、と思って、なんとか今の事務所に入ることができたんです。でも、先輩のアドバイス通り、美容師免許はきちんと取得しました。友達や専門学校の仲間には「ヒーローになるため美容師をやめる」と宣言。周りはネタだと思って笑っていましたけど、僕は本気でした。
念願のヒーローに! しかし怒られてばかリの毎日に落ち込む日々
――辞めたときは、ヒーローになれるとは決まってなかったんですもんね。そこから演技レッスンがスタートですか。
はい。でも、レッスンに行く度に、自分が周りの人よりも演技が下手なことを実感して焦っていました。そんな苦戦している僕にレッスンを受け始めて3ヵ月後『宇宙戦隊キュウレンジャー』のオーディションの話しがきたんです。
――もう、夢のような話ですよね。
本当に。それも、結果的にシシレッドのラッキー役に抜擢していただいて。レッドといえば歴代、戦隊を引っ張っていく存在。嬉しくて友達にはテンション高く報告していたけれど、ひとりになると不安がガーッと襲ってくる。果たして僕に務まるんだろうかって。
――嬉しさ半分、不安半分というところでしょうか。実際に撮影に入ってからは…。
怒られっぱなしでした。立ち位置すら分からなくて「どこにいるんだオマエ!!」とカメラマンさんから毎日、怒られてばかり。ラッキーは、ものすごく明るくて元気な役柄なんですが、まったく元気がでなくて(笑)。撮影中も辛いし、家に帰っても「明日はどう動けば怒られないだろう」とそればかり考えていました。
――そんなに怒られてばかりで、撮影が嫌にはなりませんでしたか?
怖いし、辛いんですけど嫌にはならなかったです。演技は悩むことも多いけれど、アクションはすごく楽しくて、撮影が終わると達成感を得られることも多くて。もともと身体を動かすことが好きだったのでアクションはとても楽しかった。それに、少しずつ怒られることも減ってきて、半年ぐらい経った頃、カメラマンさんから「変わったな」と言われたんです。
「お前、なんとく現場に来てるだろう」の言葉にハッとした
――どう、変わったのでしょうか?
最初の頃、「お前、なんとなく現場に来ているだろう」と言われて、それが図星だったんです。現場での状況をまったく理解しておらず、自分の番になったらセリフを言うことの繰り返し。余裕がなくて自分以外の周りのことを把握しようとしていなかったんです。
でも、演技には自信がなくても少しずつラッキーとしての自信が出てきた。「自分じゃないとラッキーはできない」と思い込んで奮い立たせてきたのが、いつしか素直にそう思えるようになって、「ラッキーだったら仲間に対してどう動くだろう」と周りのことを考えられるようになったんです。その変化が伝わったのだと思います。
――最初から岐洲さんを見ていたからこそ、変化が分かったんでしょうね。率直に美容師から俳優に方向転換して、今、仕事は楽しいですか?
俳優を選んだことに1ミリも後悔はありません! それぐらい楽しいです。でも、最近、その楽しい気持ちに少しずつ変化が出てたんです。『宇宙戦隊キュウレンジャー』に出演して1年が経ち、もう演技初心者とは言えなくなりました。経験者としてただ楽しんでいるだけではダメで、今後、自分の演技がどうすれば成長できるかを考えるようなったんです。
――ひとつ先の目標ができたんですね。ところで岐洲さんはアルバイトをしたことはありますか?
あります! 高校卒業後、東京に来てからは漫画喫茶のアルバイトをしていました。漫画喫茶を選んだのはシフトに融通がつけやすくて、オーディションを受けやすかったから。ここでは接客もレジも掃除もひとりで任されていて、仕事の手際や視野を広く持つことを学びました。アルバイトってお金を稼ぐ手段だけでなく、社会に出る前の勉強として学ぶことがたくさんあると思うんです。そして、仲間ができるのもアルバイトの魅力。仕事というひとつの目標に向かって団結する仲間は友達とは違って、自分によい刺激を与えてくれます。今、僕自身もその刺激を受けながら、仕事に取り組んでいるので!
岐洲 匠(きず・たくみ)
1997年4月13日生まれ、愛知県出身。2014年、第27回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストにおいて明色美顔ボーイ賞を受賞。2017年、『宇宙戦隊キュウレンジャー』で俳優デビュー。映画『仮面ライダー×スーパー戦隊 超スーパーヒーロー大戦』、『宇宙戦隊キュウレンジャー THE MOVIE ゲース・インダベーの逆襲』に出演。
取材・文:中屋麻依子 撮影:曽我美芽 ヘアメイク:小口あづさ