「バイトは社会性や人間性を学ぶ場所」 プロレス団体・「プロレスリングFREEDOMS」 代表 佐々木貴

佐々木貴さん

ガラスボードやカミソリなどといった凶器を使用する試合形式「デスマッチ」を中心に、さまざまなスタイルの試合を行なうプロレス団体「プロレスリングFREEDOMS」。同団体の代表でもありメインレスラーでもある「殿」こと佐々木貴さん(42歳)。過激なファイトスタイルとはウラハラ、ちょっと意外なバイト体験から得たものが今も大いに役に立っているのだとか。

 

プロレスを仕事と思ったことはない

佐々木貴さん
リングを離れると優しい笑顔

――プロレスラーの方はどんな仕事観をお持ちなのでしょうか?

リングに上がったプロレスラーに、“仕事をしている”という感覚は限りなくゼロに近い気がします。やりたいことを追及していたら、人気が出てきて、お金もついてくる世界という感じでしょうか。基本的には頑張れば頑張った分だけ人気も、お金も増えていく。なので、それよりもリングに上がりたい。だれよりも声援をもらいたい。そして勝ちたいっていう欲求のほうが先。自分がやりたいことをやれているということが第一です。

――佐々木さんの最初のバイトはケーキ屋さんだったそうですね?

はい。大学進学で上京して最初に始めたバイトはケーキ屋でした。レジ打ちと、オーダーを取ってケーキを箱に詰める。ケーキ屋を選んだのは、単純に時給が良かったからです。地元の岩手では時給1000円のバイトなんてなかなかなかったので、貼り紙を見て即申し込みました。でも、その時給には理由があって、売上金をバッグに入れて、夜間金庫に届けないといけないんです。売り上げの100万円を持ったまま、夜道を歩いて金庫に入れるので、危険な役割だったんですよ。

――用心棒的な役割は適役ですが、プロレスラーの方が、ケーキ屋というのは意外ですね。

プロレスラーが昔ケーキを売っていたと聞いて、意味がないだろうと思うかもしれないですが、人生に無駄なことなんてないです。僕の座右の銘は『無駄なことなんてねえ』。これは知り合いの飲食店の方から聞いた言葉です。

一見無駄なものってたくさんあると思うんです。例えば、各地の小さなお店に営業でポスターを貼りに回っていても『この1枚のポスターでどれだけ人が来るだろう』と考えてしまう。その町にポスターを100枚貼ったところで、何人の人が目にするのかなっていう。でも面白いもので、不思議と頑張った分だけお客さんが来るんです。そういう成果を自分で実感したときに『無駄なことなんてねえ』ってこういうことなのかなって思えるようになりました。

ケーキ屋のバイトも同じです。いま試合当日に売店に立っているときの言葉遣いは、完全にケーキ屋で得たもの(笑)。『いらっしゃいませ~』から始まり『こちらにお並びください』『ご注文お決まりの方からどうぞ~』『こちらでよろしいですか?』『おいくらになります』『いくらいくらのお返しです』『またよろしくお願いしま~す』。売っているものが、ケーキかプロレスグッズかの違いだけ。会計の計算もすぐできますからね。他のレスラーは、おつりが分からなくなっちゃう人もいる中で、僕はパッと出るので、やっぱり『無駄なことなんてねえ』って思います(笑)。

 

自分の立場を理解して、らしさを追求すれば道は拓ける

佐々木貴さん
試合前にコーナーポストで名乗りを上げる

――1997年のDDTの旗揚げ戦にも参加し、若手レスラーとして研鑽をつんでいた頃にトレーニングジムのバイトをはじめたそうですね。

デビュー当時の僕は体重が70キロほどしかないガリガリでした。そこから体を大きくしたい。でもジムに通うお金どころか生活費もない。親はプロレス入りに反対しているので仕送りももらえない。だったら自分でバイトしながら練習ができるところと考えて、ジムで働くのがいちばん手っ取り早かったです。

――体を鍛えられること以外に、ジムでバイトするメリットはありましたか?

ただ鍛えるだけでなく、筋肉の使い方やほぐし方、ストレッチのやり方なども含めトレーニングについての知識はだいぶ勉強になりました。講習にも通わせてくれました。あとは人当たりと社会性ですね。たとえばお客さんでも『このマシンの使い方教えてください』と聞きにくる人は稀です。多くの人は勝手にトレーニングを始めて帰っていく。それを見ながら『だれも聞いて来ないから暇でいいや』って突っ立っているだけか、こちら側から『どうっスか、最近?』って行くのか。お客さんが何を欲しているのか、その表情や動きから見極めて、察してあげることは大事です。

佐々木貴さん
日本全国あらゆる場所に行き、あらゆる人を楽しませる

ぼくが若い子にいつも言うのが、『試合が終わったあと、お客さんの印象に残らなかった選手は居た意味がない』ということ。仮に名前を覚えられなかったとしても、お客さんが試合後に『あの坊主で傷だらけの人、すごかったね』とインパクトを残せればプロとして勝ちなんです。プロレスで食える、稼げる選手っていうのは、自己プロデュース力がある人です。それは団体の代表としてレスラーを呼ぶ立場になってより感じるようになりました。そのリングで相手や力量などから自分の立ち位置を理解し、このリングでは何が求められ、リングの上でどう振る舞えばお客さんにインパクトを残せるか。それらのことを自分で考えられる人。

それができればどんなバイトでも職場でもやっていけると思います。

――佐々木さんは若手の頃から自己プロデュースはできていたのですか?

若い頃は下手くそでした。自分はこれだという立ち位置を見出せず、たとえば空中殺法を使う人が人気だったら、そっち路線に行きたいなと思う。でも自分を見直したときに『おれ、こんなにきれいに飛べないや。高いところも恐いし』となってしまう。理想と現実、やりたいこととやれることが合致しなかったですね。それが、デスマッチに30歳で出会ったときに『あ、この道があったんだ』と。ぼくの中でやっと固まった感じですね。

 

一度掴んだ夢は離したくない。好きなことを仕事にする幸せ

佐々木貴さん

――プロレスラーとして大事なものは?

技術、肉体、運動能力、ビジュアル。色々なものが求められますけど、人の前に立つ仕事でもあるので、社会性と、あと真面目さというか、人間性。これはプロレスに限らず、どの仕事でもそうだと思います。プロレスラーって、デカいとか、力が強いとか、見た目がメチャメチャカッコいいとか、いろんな奴がいますけど、結局どれだけすごい肉体して、どれだけ格闘技が強くても、ハートが悪い奴は残らないです。ハートが悪い、弱い奴は残らない。人気が出るのは、やっぱり人間力に富んでいる人です。

最後まで残るのはウソのない奴です。自分にウソがなく一生懸命練習する奴が残ります。そういう意味でも社会性や人間性を学ぶ場所として、下積み時代のバイト経験っていうのは、すごく大事だと思います。

――ちなみにプロレスを辞めようと思ったこととかってありますか?

1回もないですね。辛かったことはいっぱいありますけど、辞めたいと思ったことは不思議と1回もないです。やっぱりプロレスラーは昔からの夢でしたから、一度つかんだ夢は絶対に放したくないですから。意志みたいなものですね。子どもの頃から言い続けてきた言葉を実現しなきゃ、それこそウソになる。『あいつレスラーになったとか言っていたけど、いま何やってるだろうね』と言われたくない。団体を興しても『あの団体って試合ないよね』とか『全然客入ってないよね』とか言われたくない。そういう意地っ張りではあると思います。

――最後に、やりたいことを仕事にしたい若い人たちへアドバイスをお願いします。

自分のやりたいことをやっていると、『生きてる!』っていう感じがします。僕は昔から好きだったことを仕事に変えて、若くして結婚して苦労もしたけど、かわいい家族を自分の好きなことで養えて、こんな幸福なことはありません。好きな仕事で家族を養えるのが、どれだけ幸せか。でもそのためには自らいろんな経験をして、吸収しなければならない。だから『人生に無駄なものなんてない』んです。それを読者の方々にも分かってもらえたらなって思います。

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