インドネシアに魅せられた起業家、小野寺望に聞く 「人のために働く」モチベーション

小野寺望さん

横浜で少人数制英会話スクール「Nido English School」を運営する小野寺望さん。2013年にオープンしたスクールのコンセプトは、様々な国を通じ世界の裏側を知ること。プライベート&グループレッスンのほか、イベントとしてキャンプや料理教室なども企画しています。もちろん日本人生徒がメインですが、外国人講師の日本文化の勉強として、座禅を組んだり日本舞踊を行ったことも。また、スクールの売上のほとんどを、小野寺さんが20代半ばで出会ったインドネシアの孤児院に寄付していました。そこには、彼女だからできる働き方がありました。

 

グローバルな環境や経験が原動力に

小野寺望さん

–今までのご経歴を教えてください。

出身は横浜です。幼稚園から小学校はアメリカ、高校はカナダで過ごしました。異文化体験によって様々な価値観があることを学び、「みんな違って、みんないい」という性格は、海外生活の経験で培ったものだと思っています。

学生時代から漠然と「子どもに関わる仕事がしたい」という想いがあり、高校時代はカナダのインターンシップで一年間、保育園や幼稚園で働きました。そこでは「子どもだけ」ではなく、「子どもも大人もみんなで一緒に楽しむ空間」が常にあり、子どもたちは「優しくしなさい」と教えられるより、優しい人に囲まれていれば自然と思いやりのある子になるんだと学びました。私も「子どもも大人も皆が楽しめる社会作りに関わりたいたい」と徐々に思うようになりました。

大学時代は、世界中の国々へバックパックで旅へ。各国のストリートチルドレンや多くの人との出会いから「小さくてもいいから、世界中にある貧富の差をなくしたい。格差を広げる側に回らない仕事をしよう」という気持ちが強くなりました。

–インドネシアとの出会いを教えてください。

はい。まず大学を卒業して英会話スクールに入社。働きながら通信制の大学で4年間学び、教員免許を取りました。インドネシアの子どもたちに出会ったのはこの頃です。私の趣味は海外旅行とサーフィンで、ある日インドネシアの海でサーフィンをしていましたが、近くに36人の子どもだけが住む建物がありました。いわゆる孤児院です。

金銭的、精神的な面で子育てのできない親が、孤児院に赤ちゃんを置いていくのです。幼児から高校生までが集団生活していて、18歳になったら孤児院を出て仕事に就く、という風習がありました。地域に受け入れられていた施設でしたが、国はノータッチ。援助のシステムなどありません。その現状を見て、私はそこに住む子どもに「明日から私もここに住んで良い?」と聞かずにはいられませんでした。ビザの関係もあり長期滞在することは叶いませんでしたが、孤児院と日本を行ったり来たりする生活がそこから始まりました。

 

学費サポートのためのスクール開校

小野寺望さん

–インドネシアの子どもたちと出会い,どのような行動を起こしたのですか?

観光客に物乞いをして生計を立てている子ども達にとって、将来に職を得ることは難しい現状がありました。18歳で孤児院を出ても、生きていくために自分の体を売らざるを得ない子もいました。可能性が無限にあっても、環境がそれを引き出せないという、冷たい現実。

地域の支援、現地の頼れる大人のネットワークを作り、食料確保や教育のサポートを行いました。教育を通して子ども達が色々な選択肢を知り、自分の人生や社会を「努力次第」で作っていけると感じられることや、「これから」を信じられることは本当に重要です。選択肢がいくつもある中で自分の生き方を選べることと、最初から限られた生き方しか目の前にないことでは、人生の組み立て方が大きく変わってきます。「選択肢がいくつもある中で好きな選択ができる」ということは、当たり前のことではないと私も改めて教わりました。

–子どもたちを支援するにはお金が必要になってきます。

そうですね。子ども達にとっての人生のロールモデル(模範や理想となる大人)は外国人の私ではなく現地人であるべきだ、とを感じ始めていた時期だったこともあり、私は日本から子どもたちの学費を支援するため、2013年に地元横浜で少人数制英会話スクール「Nido English School」をオープンさせました。この事業で得た売上を学費に充てることが目的でした。起業して4年、2017年には目標としていた金額に達し、孤児院に住む子どもたち全員が高校3年生まで学校に通えるようになりました。

–「Nido English School」の特色を教えてください。

“Nido”はスペイン語で「小さな巣」という意味。小さいながらも、海外の文化や異なる世界を肌で感じられる場です。カナダで学んだ「大人も子どもも、一緒に楽しむ空間づくり」を目指しています。だから「楽しいことは何でも共有」がNido English Schoolの基本です。

講師は私の他に30人の外国人が勤務しています。私がこれまで経験したことを通して、単なる英会話スクールとして一方的に英語を教えるのではなく、外国人も日本の文化や考え方が学べる、相互コミュニケーションが特徴です。

自分自身をオープンにして、リアルな会話から世界が学べるスクール。登録していただいている生徒は約300人。その中には90歳の方や障がいを持っている方まで様々です。

 

これからもインドネシアに尽くすことが幸せ

小野寺望さん

–インドネシアの孤児院を援助し続けようと思った,インドネシアの魅力は何でしょうか?

常に他人を助けようと思う『シェア文化』です。日本で言う「元気?」という挨拶。インドネシアでは「スダマカン?」と言います。意味は「ご飯食べた?」です。常に自分ではなく他人を気にかけ、どんな人とも家族のように助け合う文化が根付いています。

私がインドネシアにいる時、一人のインドネシア人男性と出会いました。彼の全財産は300円程度。Tシャツを買いたかったそうで、一緒にお店を回っていたところ、ストリートチルドレンに会いました。彼が「スダマカン?」と聞くと、子どもたちは「食べてない」と答えました。すると彼は全財産300円を子どもたちに差し出しました。「だって僕は朝食を食べたけれど、あの子たちは食べていないから」と何事もなく話す彼。基本的に恵まれている日本では、他人にお金をあげるなんてことはほとんどありません。何の見返りもなしに、お互いがお互いを助け合う社会が本当に美しいなぁと、インドネシアが大好きになりました。ちなみにその彼というのは、今の私の夫です、笑。

–2017年に学費援助は完了しましたが、今でもインドネシアとのつながりはありますか?

Nido English Schoolではレッスン以外に英語を使える場、多くの人と出会える場として様々なイベントを行っていますが、今年はインドネシアツアーを実施しました。そこでサーフィンのインストラクターを依頼したのは昔孤児院にいた子ども達なんです。とても誇らしかったです。

プライベートでも3ヵ月に1度休みを取ってインドネシアの現地に行き、孤児院出身の子ども達と頻繁に連絡をしています。これからはサーフィンだけでなく、農業などを通した仕事を一緒にしていこうと話もしていて、今後の展開、子どもたちの将来が本当に楽しみです。

–経験と人脈が何よりの財産ですね。

そうですね。私は家が欲しいとか、貯金をしなければいけないという感覚があまりありません。もし、本当に困った時はインドネシアが私を助けてくれると思っています。インドネシアに尽くすことが幸せですね。

 

働き方も「みんな違って、みんないい」

小野寺望さん

–インドネシアの孤児院の子どもたちに出会ってから,起業までを振り返ってみて,どう思いますか?

孤児院に出会った25歳からスクールを開校するまでの6年間は、本当に色々なことをやりました。JICAのボランティアで1年間メキシコに行ったり、ピースボートのスタッフとして働いたりしました。また、日本では家庭教師や塾講師、テレアポのアルバイトなど毎日違う仕事をしていた気がします。しかし、目標を持って働くことはとても楽しかったし、毎日が充実していた気がします。

貯めたお金は、インドネシアの渡航費になり、なくなったらまた日本で働いてお金を貯めるという生活を5年間くらい送っていましたね。だからこそ、短期間働くという雇用形態は、自分に合っていました。

–人のために働くということがモチベーションになっていますね。

そうですね。私はこれまでのボランティアや正社員やアルバイトや今の仕事、それぞれの仕事を通して、たくさんの人とつながりを持つことができました。今の仕事はインドネシアの子どもたちの学費支援のためなので別ですが、これまではお金を稼ぐために働いていたわけではないので、確かに銀行口座は不安でいっぱいでした。
それでも、人から教わったことや人のために働くという経験の価値は計り知れません。お金を基準に働くのではなく、人の幸せのために仕事を見つける。それも働き方の一つだと思います。

小野寺望さん

■プロフィール
小野寺望(おのでら のぞみ)

1981年横浜生まれ。幼稚園・小学校をアメリカ、高校をカナダで過ごし、青山学院大学経済学部へ入学。大学卒業後、英会話スクールに4年勤務。メキシコ、インドネシア、地球一周船ピースボートで経験を積み、2013年に英会話スクール・Nido English Schoolを開校。

(取材・執筆:佐藤翔一)

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