外国人に聞く「日本で働く・暮らす」第4弾。今回は、東京大学で博士号を取得し、現在は水電力会社で研究者として働いているインド人「Tuba Zahra(トゥバ・ザヘラ)」さんに取材してみました。
日本人は、感謝しつつ話し合おうとする点がすごく良かった
――そもそも、あなたが日本で経験したバイトはどういったものでしたか?
秋葉原近くの翻訳・ウェブ編集運営会社でデータリサーチャーをしていました。時給は1,200~1,400円くらい。この会社の顧客はインド人がメインだったので、私は英日・日英、インド系言語で翻訳された企業のサイトを見つける役割を任されていました。土日勤務だったので、平日に大学の授業を休む必要がなくて柔軟に働くことができました。
あとは、ファーストフード店でも働きました。時給は1,000円くらいで激務でしたね。最初は簡単だと思ったんですが、数ヶ月経つと体がつらくなってしまって。でも、その経験から飲食業の人をすごく尊敬するようになりました。
――上司や同僚はどんな存在でどう付き合っていましたか?
上司は仕事に対しては厳しかったですが、すごく優しくて理解のある人でしたね。同僚には日本人も外国人もいて、日本人の同僚とは日本語で交流していたので日本語力を向上することができました。日本人の同僚は分からない点を聞けば助けてくれて、ちゃんと理解できました。私のアウトプットに対して、日本人の同僚は感謝しつつ話し合おうとする点もすごく良かったです。
同僚と関係がこじれることはなかったですが、たまに意見の相違もありました。そんな時は、いつも粘り強く他の人の感じ方を聞いて理解してから、私の考えをその人に合わせて修正して提案するようにしました。
――そのバイトのやりがいや、最も楽しかったエピソード・辛かったエピソードを教えてください。
大変だったのはコミュニケーションですね。最初は日本語の会話が未熟でしたから。聞いて理解することはできても、話すことはすごく難しかったです。ジェスチャーを織り交ぜつつ、日本語でも英語でもできるだけ簡単な単語を使って、シンプルな文で何が言いたいのかを表現するようにしました。そうするうちに会話力も聞き取り力もUPしました。
最も難しかったのは、第一印象を作ることです。元々全くなかった自分への印象を、自分がインド人であることで与えているんです。例えば、インド人だから雪を見たことないだろうとか日本は寒いんじゃないかとか思われがちですが、インドで雪は経験済みなんです。一般的なイメージや認識を払拭するのは並大抵ではありませんでしたね。
日本人学生は、方向性や目的意識がブレがち
――日本のバイトで一番驚いた日本人の行動・考え方は何ですか。
最も驚いたのは、日本人は全てにおいて事前のイメージや認識があるということです。特定の解決策のイメージを作って例を示し、それをもとに理解を深める、というのは驚きでした。
もうひとつ驚いたのは、私のアイデアが良いものだった時に、後から同僚が同じ結論に至ったとしても、先に私が同僚を納得させなければスルーされがちだということです。他人をリスペクトすることは最も重要だと私は思いますね。
――自らの経験を踏まえ、仮に、あなたの友人が来日し、日本の企業で働くことになったとしたら、どんなアドバイスや注意をしますか?
1つ目は、一生懸命働き、仕事後のパーティーを一生懸命楽しもう。
2つ目は、仕事に集中して、知識と能力の限りを尽くそう。
3つ目は、仕事に支障をきたす問題を引き起こさないようにしよう。
4つ目は、自分の言動で日本の慣習を傷つけないようにしよう。(来日前に日本文化の礼儀作法の本を読んでおくといいと思います。)
最後は、美味しい料理を楽しもう。(食の情報は同僚が喜んで教えてくれますよ!)
――バイト先で日本人の10代の男女をマネージメントするとしたら、どんなマネージメントをしますか?
ミスを犯しても罪悪感を感じさせないようにしたいです。日本ではミスを犯すこと=悪と考えられがちですが、世界的にはミスを犯すこと=経験を積むことと見なされます。
研修生やインターンには、質やスキルを記録する指導者をつけて成長させたいですね。日本人学生は、自分がその仕事をする意味を自問して方向性や目的意識がブレがちです。目的意識がしっかり確立できれば、自分の専門性や達成感が身につくように指導するのは簡単じゃないかと思います。
否定されても落胆しないことが大切。“NO”は、裏を返せば「新しい機会を得られる」ってこと
――ご自身の国で10代後半~20代前半の就業意識・キャリアプランはどういったものですか?10代が考えるキャリアプランと親や教師から理想とされるキャリアプランに違いがあれば教えてください。
15~25歳は安定した生活をおくるためのキャリアを得ることに力を注ぐのが一般的。でも10代にとっては、良い成績をとることよりも、別のスキルを習得することが大切です。
5年前なら、学生は工学・医学みたいに古典的な勉強をしていましたが、現在は起業家になって儲かるスタートアップをリードして、安定した生活を送るための学問と、成功するためのスキルを一度に両立させている学生もいます。
――「天職が見つからない。やりたいことが見つからない。」という日本人の悩みに対して、あなたならどんなアドバイスをしますか?
まず自分の得意分野を知ってそのスキルを伸ばすことです。
それから、人生の目標や目的を見つけること。
やって幸せになれる仕事もいいですね。生活費を稼いで幸せになれるなら満足だし、仕事に熱中できれば高収入にもなりますよね。
否定されて落胆しないことも大切です。“NO”は裏を返せば「新しい機会を得られる」ってことです。
――日本で暮らして、好きなところ/嫌いなところを教えてください。
一番驚いたのは、通りを歩いている人たちのマスクです。花粉のせいでマスクをするなんて想像もしませんでした。
それから、安全に旅行や生活できるのは日本で一番気に入っている点ですね。効率的な交通ネットワークや、誠実で親切な人達なんかも日本のすごいところです。
――あなたの家族が日本に移住しようかどうか悩んでいるとしたら、どう助言しますか?
世界で最も安全な国の一つですし、短期ならいいと思います。ただ家族が仕事をしていないとなると、馴染むまで文化的に少し難しいかもしれませんね。最大の問題は日本特有の共同体意識や仲間意識なんです。
34歳女性、インド出身
東京大学で博士号を取得。在学中に秋葉原のWeb翻訳会社でアルバイトとしてデータリサーチを担当。卒業後は、スタートアップ企業に入社し、現在は水電力会社で研究者として働く。日本アルプスに囲まれた長野県の自然豊かな環境で日本生活を満喫中。