みなさん、「3Dラテアート」ってご存知ですか? カプチーノなどの表面に、泡立てた牛乳とエスプレッソを使い模様を描く「ラテアート」を立体的に進化させた新技術です。今回は、3Dラテアートの生みの親であり、Twitterで大人気のラテアート職人・じょーじさんがいる「Reissue(リシュー)」へお邪魔して、3Dラテアート誕生秘話や仕事のやりがいなどをお聞きしました。
いつかお客さんに出せることを夢見て始めたラテアート
――まずは、ラテアートとの出会いについて教えてください。
きっかけは、地元の岡山で父が喫茶店を経営していたことですね。働く父の姿を見て、「いつか自分も店を持ちたい」と思うようになりました。18歳のときに上京して最初に寿司屋で働き、20歳のころにはフレンチレストランへ転職。そこで初めてカプチーノに出会いました。
2年くらいはずっとハートばかり描いていたんですが、ある日他店舗から来た社員の方にラテアートを教えてもらったんです。遊び心で始めたのですが、どんどんのめりこんでいきましたね。仕事の終わりに、同僚や友人のリクエストに応える形で作って、mixiで発信するようになりました。「いつかお客さんに提供したいな」と思いながら描いていたので、投稿した写真に感想をもらえるのが本当にうれしかったです。
そのあと、発信手段をTwitterに変えてからより不特定多数の方に見てもらえるようになって。リツイートでどんどん広まり、“拡散”されていきました。初めて爆発的な反響があったのは、『ルパン三世』の銭形警部を描いたときですね。
本日のカプチーノ、『銭形警部』。 pic.twitter.com/A2d9zc23IS
— じょーじ (⚫^ω^⚫) (@george_10g) 2013年3月11日
70杯くらい作品を撮りためた頃に、「ここまできたら100杯を目標に描きたいな」と思って、“夏休み企画”と題して「RTしてくれた人のアイコンをラテアートにします」とツイートしたんです。1日で1万件以上も反応があって、改めて反響の大きさに気が付きました。1日3杯ずつ、約1か月かけてひたすら描いていきましたね。それが今もTwitterで発信し続けている「本日の暇カプチーノ」と題した投稿の原点です。
――楽しく拝見しています! どんな時に描かれているんですか?
オーダーが途切れた瞬間など、思いついたときに作っています。1日だいたい1~3杯くらいは描いています。時事ネタが多いのですが、アニメや漫画のキャラクターを描いたことをきっかけに、作者の方とお話できる機会をいただいくなど、本当にうれしかったですね。
将来への不安、焦り……いったんリセットするために大阪へ
――フレンチレストランで働きながらSNSの人気者に。その後、一度東京を離れていますが、その理由を教えてください。
24歳の時、状況を1回リセットしてみたくなったんです。18歳のころからフリーターで、生活のために昼の仕事の後、深夜に漫画喫茶で働くなど5つのバイトを経験しました。収入面で安定していない不安はもちろん、24歳で自分の店を持った父と自分を比べ「僕はこのままでいいのだろうか」と漠然とした危機感を持ち始めたんです。店を開くなら、東京でカフェをやりたい。そのためにもっといろんな世界を知らなければならないと感じました。
大阪を選んだのは、東京に次ぐ第二の都市だから。大阪ではエスプレッソマシンのあるベルギービールの店で働きながら、ラテアートの活動も続けました。環境を変えても、本当に自分のやりたいことかどうかを確かめたかったんです。3Dラテアートを始めたのも、このころです。
――3Dラテアートを思いついたきっかけはなんだったんですか?
そのころ、映画やゲームで3Dが流行っていたんです。何か新しいラテアートができないかと考えていたとき、東京のフレンチレストランで働いていたころにスチーム(泡立て)したミルクをホイップのように乗せるサービスがあったのを思い出して。「あの泡をラテアートに使えたらおもしろいのではないか?」と思い立ったのがきっかけですね。立体的な形を維持するために、より崩れにくいフォームドミルクを作るのに試行錯誤しましたね。
3DラテアートはTwitterに載せたのを機に、日本だけではなく世界中の人から反応をもらえるようになりました。国内でのイベントやワークショップ、香港、スウェーデン、マカオといった海外でも講演や実演させてもらう機会がありましたね。海外では、3Dラテアートをカルチャーの一つと認識してくれていることを実感しました。
――その後、2015年に「Reissue」をオープンされました。
この場所で同じ名前の飲食店を経営していたオーナーが、居ぬきで貸してくれたんです。原宿は日本の文化のアイコンであり、流行の最先端。夢をかなえるには最高の場所でした。28歳のときに、同じくバリスタの友人とカフェ「Reissue」を開店しました。ラテアートだけではなく、最近は「本日のランチ」を始めるなどフードにも力を入れ始めています。
リクエストに応える形式は開店当初から続けていますね。やはり、お客さんに喜んでもらいたいという動機ではじめたラテアートなので、お客さんが描いてほしいものを作りたいです。
飲食店で働く魅力はお客さんの「ありがとう」の近さ
――開店当初より常にお客さんが絶えない人気店。1日でどれくらいカプチーノを作るんですか?
多いときは1人で80杯以上は作りますね。1杯作るのにだいたい4~5分はかかりますから、一日中キッチンから出られないことも多いです。3Dラテアートはお客さんが飼っているペットなど、動物のリクエストが多いですね。印象的だったのは、カップルのお客さんに「今日婚約したので記念にできるようなアートを」とおまかせされたことですね。人生の節目の記念のお手伝いをできるなんて、こちらもうれしくなっちゃいました。
――カフェでのアルバイトは、学生を中心に高い人気です。目指している人に向けて、アドバイスをお願いします。
お客さんと直接対話できることがいちばんの魅力だと思います。サービスに対して「ありがとう」とお礼を言ってもらえる機会が多いので、毎日喜びをかみしめながら働くことができますよ。
余裕があれば、時給が発生する時間以外の“プラスアルファ”にも目を向けてみてください。僕もラテアートを始めたきっかけは、勤務時間外の息抜きでしたし、今続けているのも「お客さんに喜んでもらいたいから」というシンプルな理由です。思いがけないところに、仕事のやりがいが転がっているかもしれませんよ。
まとめ
SNSを通じて世界に広がったじょーじさんの3Dラテアートも、きっかけは先輩から息抜きに教えてもらったという些細なこと。取材のために目の前でラテアートを披露していただいたのですが、説明していただきながらもとても楽しそうな少年のようなわくわくとした表情が印象的でした。将来の夢や働く理由に迷っているあなた、踏み出すきっかけはすぐ目の前にあるのかもしれませんよ。
[住所] 東京都渋谷区神宮前3丁目25−7 丹治ビル2F
[営業時間] 10:00-18:00(Lo17:30)、不定休
取材・構成・文:麻林由(verb)
撮影:高橋里美